石井勲の伝統的仮名使のすすめ

        

  今まで述べて来た所を読んでの御感想は如何ですか。今はまだ難しい感じがするかも知れませんが、判らない所は今まで通りに書いて、「これは伝統的かなづかで書ける」と思所だけ書けば好いのです。昔の人だってうだったのです。初めから正しく書ける人などる訳がありません。文章を読んだり書いたりしてる間に、一つ一つ覚えて行ったのです。うい訳で、今日から早速実践してみて下さい。
  前項で言ましたうに、伝統的かなづかと言っても、大部分は『は行動詞』ですから、その他の違所だけ覚えれば好い訳です。では早速始めます。この文章で伝統的かなづかで書かれてるのは、『は行動詞』と《う》と《る》と《う》だけです。《う》は《う》と一緒に覚えませう。《う》は、《しか(sika → sa)》が延音化して《う》となつたもので、《う》は、かく(kaku → kau)の《う音便》です。
  《う》は漢語の《様》です。現在の発音ヤンから推察される様に、ヤウと発音したものが、アウがオオと発音される例に従って、ヨオと発音する様になった訳です。同じ発音でも「勉強しょう」の《よう》は《やう》ではありませんから注意して下さい。これは、「勉強せむ」の《mu》が《u》に変った「勉強せう」が、エウもヨオと発音される例に従って seu → syo と発音されて《しょう》と書かれたものが《シヨオ》と読まれる様になったものです。昔の人も《よう》と《やう》とはよく間違ました。「勉強しよう」は「未然形+よう」ですが、「勉強するやうに」は「連体形+やう」だ、と覚えておくと好いと思ます。
  《ゐ》といふ仮名は、前回述べました様に、《ゐる》と《率ゐる》だけですから、簡単に使ますね。所で、《イ》とい発音で《い》と表記する動詞の語尾は、《い音便》の連用形を例外とすれば、《老いる、悔いる、報いる》の三語しかありません。とい事は《イ》と発音する動詞の語尾は、前述の《ゐ》の二語と《い》の三語を除けば、総て《ひ》だとい事になります。ですから、《い》と発音する動詞の語尾は、前述の五語以外は総て《ひ》だとい事になります。『は行動詞』は数切れない程沢山あって、一語一語総てを覚える事は大変ですが、《い》と発音する動詞の語尾は、前述の五語でなかったら、総て《ひ》と書けば好いのですから、決して難しい事ではありませんね。
  《ゑ》を使語も、《植る、飢る、据る》の三語しかありません。また、《エ》と発音して《え》と書く動詞も《覚える、越える、絶える、増える、燃える》と、僅かしかありませんので、これらを丸暗記しておきませう。うすれば、《エ》と発音する動詞の語尾は総て《へ》と書けば良い、といふ事になって楽です。



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