石井勲の伝統的仮名使のすすめ

        

  伝統的かなづかは、大別するに、二通りが考られます。
1.一つのかな文字に、二通りの読み方があるもの
  は→ハ  ひ→ヒ  ふ→フ  ヘ→へ  ほ→ホ
   →ワ   →イ   →ウ   →エ   →オ
2.一つの音声を表すのに、二通り以上の書き方があるもの
ワ→わ  イ→い  ウ→う  エ→え  オ→お  ジ→じ  ズ→ず
  →は    →ひ    →ふ    →へ    →ほ    →ぢ    →づ
          →ゐ            →ゑ    →を
  難しいと言れて変られた伝統的なかなづかですが、現代かなづかいに無いかな文字は、《ゐ・ゑ》の二文字だけです。それもその多くは、《あゐくれなゐ》《つゑすゑ》など、漢字で表記するもので、どうしても使必要があるのは《率る》と《飢る・植る・据る》の四語だけです。また、一つの文字が二通りに読めるのは、《はひふへほ》の五字だけです。全体から見たら、伝統的かなづかと現代かなづかいと違ってるのは、ほんの一部で、一語一語全部覚えた所で、高が知れてゐます。試みに、本文中の違ってるかなの横に「ヽ」印を付けました。どんなに少ないか、お判り頂けると思ひます。
  また、「ヽ」印の付いたかなを調べてみて下さい。例として挙げた《ゐ》と《ゑ》を除けば、二つの《ゐる》の《ゐ》の他は、皆『は行活用動詞』です。つまり、伝統的かなづかと言へば難しく聞えますが、実際には大部分が『は行』の動詞です。「ワイウエオ」と発音する動詞の語尾は「わいうえお」と書かないで「はひふへ(は)」と書くことを知れば、実際には、大部分は解決した事になるのです。例、会わない→会はない。会います→会ひます。会う→会ふ。会え→会へ。会おう→会はう。
  『は行』動詞と言つても、大部分は《四段活用》です。その主なものを挙げてみます。
会ふ・合ふ・逢ふ・扱ふ・洗ふ・祝ふ・言ふ・伺ふ・失ふ・疑ふ・歌ふ・奪ふ・敬ふ・占ふ・潤ふ・憂ふ・行ふ・追ふ・覆ふ・思ふ・囲ふ・適ふ・通ふ・庇ふ・買ふ・飼ふ・嫌ふ・食ふ・乞ふ・逆ふ・誘ふ・従ふ・慕ふ・救ふ・添ふ・戦ふ・漂ふ・給ふ・誓ふ・違ふ・使ふ・繕ふ・償ふ・集ふ・調ふ・問ふ・弔ふ・伴ふ・習ふ・賑ふ・担ふ・匂ふ・願ふ・宣ふ・這ふ・払ふ・拾ふ・奮ふ・惑ふ・舞ふ・迷ふ・向ふ・貰ふ・養ふ・雇ふ・結ふ・酔ふ・装ふ・煩ふ・病ふ・笑ふ。
以上の動詞は、「笑ない、笑ます、笑、笑」と活用しますので、以上の動詞を一語一語活用させてみて『は行動詞』に慣れて下さい。
  他の『は行動詞』の主なものは《下一段活用》です。教へる・変へる・換へる・数へる・加へる・譬へる・例へる、などです。活用は「例ない、例ます、例る、例ろ」ですからこれも他の言葉で練習してみて下さい。



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