石井勲の伝統的仮名使のすすめ

        

  《現代かなづかい》とは言っても、「てにをは」の「は」や「を」や「へ」は、《伝統的仮名使》にったものです。だから、伝統的仮名使には全く縁が無いと思ってゐる人でも、実は全く知らないのではなく、その最も重要な部分は心得てゐるのです。
  日本語は、世界の凡ての言語の中でも、極めて類の少ない《膠着語かうちゃくご》に属する言語です。その最大の特徴が《てにをは》で、概念をたない言葉です。概念語に付着して、その語の役割(ケース)を明示するのが役目です。この様な働きを有った言葉は、他の言語には皆無だとは言へませんが有っても極めて稀です。その為、語の役割はその位置で判断するしかないので、「I」「my」「me」の様に、意昧と役割と合せ有つ《屈折語》は、幾分はっきりしますが、中国語の様な《孤立語》に至っては、文脈が混乱して、誤解のおそれが多分にあります。この点、日本語は「てにをは」のお陰で世界一明快です。豊かな「てにをは」を創作した昔の日本人は、きっと優秀な民族だったのでせう。
  《伝統的仮名使》を捨てた国は、広い世界でも我が国だけだった、とは既に述べました。我が国だけが、とんでもない事を仕出かしたのです。だから、一日も早く、日本人全体、伝統的仮名使が使へる様にならなければなりません。それは易しい事だとは言へませんが、決して難しい事ではありません。その理由は、「てにをは」といふ、伝統的仮名使の最も重要な部分を既に知ってゐるからです。
  「は」を「わ」と発音し、「へ」を「え」と発音する事を知ってゐれば、「はひふへほ」は、本来の発音の他に「わいうえお」といふ読み方もある、といふ事が判る筈です。これは外国でも同じです。Holland, honest は、ホランダ、ホネストとは読まず、オランダ、オネストと読むでせう。
  「会ふ、争ふ、吸ふ、言ふ、追ふ、食ふ、乞ふ、問ふ、縫ふ、這ふ」などは、皆《は行四段活用》と呼ばれるもので、「は、ひ、ふ、へ」と変化しますが、「わ、い、う、え」と読みます(会ない、会ます、会、会)。現代文法は《五段活用》といふのですが、例へば「会おう」は、「会はう」が正表記ですから、「会わう」と読むべきものです。然し、「わ(ア列)」は、口を最も大きくけた時に出る音声で、次の「う」は口を最も小さくすぼめた時に出る音ですから、「わう」と続けば発音し難いので、ワとウの中間書のオに発音して「をお」となるので、「会をうぉお」と読む訳です。
  これは世界共通の現象で、例へば、英語の "Australiaオーストラリア, Austriaオーストリア, Augustオーガスト, audioオーディオ, auctionオークション, autumnオータム, automationオートメイション" など、 au は皆オーといふ発音です。



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