『美しい日本語のすすめ』の出版(9‐19)

 平成十四年五月、文化廳の企畫で「美しい日本語について語る會」編の『美しい日本語のすすめ』が出版された。先づ、美しい言葉について「話し手や書き手が心をこめて使う言葉は美しいということです。いわゆる美辭麗句ではなく、平凡な飾り氣のない一言こそ心を打つことがあります。それは心のこもった言葉、いかにもその人らしい言葉、相手を思いやる言葉、相手や場面にふさわしい言葉、事柄を表現するための、これ以外にないと言えるほどぴったり合った言葉などです」「もう一つは、言葉そのものとして美しいものがあるということです。日本語の歴史の中で、はぐくまれ受け繼がれてきた豐かな語彙の中には、珠玉のような言葉がたくさんあります」と述べ、美しい言葉を身につける上での心掛けとして、「言葉をいつくしむ」「忘れずにあいさつをする」「正しい發聲を心がける」「尊敬の氣持ちを大切にする」「地域の言葉を見直す」「國際語としての自覺を持つ」といふ十項目を擧げてゐる。

 會の座長である中西進は「あとがき」に「ことばは生き物です」「ちょうど鉢植えの植物と同じで、愛情をもって水をやったり、日當たりを考えてやったりしないと、たちまち生命力がなくなり死んでしまいます。あるいは、ぞんざいに扱うとねじ曲ったり、思わぬ方向に伸びていったりします。ことばほど、人間の扱いに敏感なものはないと、感心することがしばしばです」と述べてゐる。