滝沢幸助議員の質問主意書(八の53)

  昭和六十年二月二十日、第十六期國語審議會は「改定現代假名遣い(案)」を公表した。二月から三月にかけて全國五地區で説明會が開かれた。衆議院では民社黨の滝沢幸助議員が國語國字問題に關する質問を二月から五月にかけて再三行つてゐるが、滝沢は四月二日に左のやうな「國語問題に關する質問主意書」を衆議院議長に提出した。

 * 國家の統一と國民の文化は、その言語文章に負うところが極めて大きい。故にフランスにおけるアカデミー・フランセーズの如きは、三百五十年以來國立の學會で國語の保全向上につとめているところである。我が國は幸いに單一民族同一國語という惠まれた條件のもとに、萬葉の昔より、極めて豐富にして高度な國語文化を保持して來た。しかもこの間に漢字を導入して音訓を讀み分け、これを完全に國字化したのみならず、カナ、ひらかなを考案して漢字と調和せしめ、佛教文化、西歐文明を消化しつつ、詩歌、俳諧、書道など他國にその類例を見ない分野を拓き、豐富な語彙と高遠な思想、豐醇な美意識を作興し、世界に冠たる文明を創成した。このことは國民總ての誇りであり、世界人類の至寶である。

  しかるに、敗戰による古き傳統は一切惡とする風潮のもとに、政府は昭和二十一年十一月十日國語審議會によつて當用漢字千八百五十字を、更に昭和五十六年常用漢字千九百四十五字を採用し、別に「新假名遣い」を公表して官廳用文書、學校教育、新聞、雜誌、放送など全般的に文字を單なる發聲の記號とする思想のもとに統制しようとした。
  しかし、それは餘りにも非現實的であることゆえ、その後これを強制するのではなく目安であるとしたが、教育界などの實情は改められず、却つて混亂を助長している。このことは先にのべた民族の文化を後退させ、國家の傳統を中斷し、國民の美意識を低下させ、思想を低俗にし、家庭、社會における世代斷絶を増長させる以外何らの利益がなく、救いがたい惡政といわなければならない。
今これを改めて正統本然の國語を囘復し、教育と文化を正すことは國政の急務である。

  昭和四十三年の自由民主黨の『國語の諸問題』に相通ずるものがあり、國語問題の本質を踏まへた「主意書」と言へよう。同時に提出された「戸籍法第五十條に關する質問主意書」は人名用漢字の制限の撤廢を求めたものである。また六十一年十二月四日に提出された「國語教育に關する質問主意書」では「五十音圖の復活」を訴へ、古文及び現代文の引用は原文のままとするやう求めてゐる。かうした滝沢議員に呼應して、國會では自由民主黨と民社黨の議員(衆議院八十六名、參議院十二名)によつて、「國語問題を考へる國會議員懇談會」(會長・稻葉修)が設立された。