『〈教養のための〉基本漢字表』(八の43)

 昭和五十五年十月、國語問題協議會編の『〈教養のための〉基本漢字表』が刊行された。木内信胤は「序文」において「常用漢字表」について「從來の『當用漢字表』(千八百五十字)が"漢字の使用を制限する"目的を持つてゐたのに對して、これは單に"*或る種の目安*を提供する"ためのものであつて、制限の意圖は持たない、といふことを明確にしたことなど、國語政策の方向轉換として大いに見るべきものがあります」が、あまりに字數が少ないので「*適當な字數を持つ別箇の漢字表*を作成して、"世の中に提供しよう"といふことであります」「"これだけ知つてゐればいい、といふものではなく、*これぐらゐは是非知つてゐて欲しい*、日本人として苟も教養を持ち、望ましい精神生活を營むためには"といふものです」と説明し、「この漢字表作成の實務を擔當されたのは、青山學院教授林巨樹先生であります。なほまた、この漢字表の字種選定の基礎となつたものとして、本會の元主事土屋道雄氏の研究を忘れてはならないと思ひます」と述べてゐる。
 
 「本書の特色と構成」には「本表は『國語國字教育――資料總覽』(昭和四十四年刊)の『綜合漢字表』に基く土屋道雄『當用漢字表改定試案』(『國語國字』七二號)により、三四四四字の漢字の運用に資するために作成したものである」とあり、「一、本表の構成」には「本表の一段目の見出しは表音式假名表記により、音は片假名、訓は平假名によつて示した。二段目には漢字を正漢字で掲げ、異體字、略字等をも示した。三段目には見出し字の音訓を、音は片假名で、訓は平假名で示した。四段目には、その漢字の用例を能ふかぎり多く收めた」とある。字種選定も本の構成も妥當であり、極めて利用價値が高いと思はれる。

 本書の帶に、築島裕は「漢字の用法には、本來廣い幅があるのに、當用漢字以來、不自由な制約を餘儀なくされて來た。本書は、熟語・慣用句を始め、地名・人名に至るまで、多數の例を擧げ、一般の國語辭典からは得られない、豐富な知識を提供してゐる。漢字表現の渇を醫し、同時に明治以來の文學の讀解等にも有用な書であらう」、村松剛は「座右に、つねに備へておきたい本である。日常使用されてゐる文字の正確な書き方や發音は、だれでもが知つてゐてよいはずだらう。敗戰後の無茶苦茶な國語政策によつて失はれた基本的な漢字への知識を、本書は改めて與へてくれる。言ひかへれば傳統文化への正しい目を、である」と推薦文を書いてゐる。