ローマ字教育の實施(その七の7)

  文部省は二十一年六月、國民學校にローマ字教育を實施する目的を以て、ローマ字教育協議會を設置した。同協議會は十月二十二日「國語教育の徹底をはかり、社會生活の能率を高め、國民の文化水準を向上させるために、ローマ字によつて讀み書きを行ふ習慣を國民一般に普及する必要がある」といふ「ローマ字教育を行ふについての意見」を可決上申してゐる。またその實施方法についての二、三を擧げると「2、昭和二十二年度は、第四學年(又は第三學年)以上の各學年同時に開始すること」「3, 授業時數は、一年四十時間以上とすること」となる。

  右の上申に基づき、文部省は翌二十二年二月二十八日「國民學校におけるローマ字教育實施要項」を發表し「昭和二十二年度から、國民學校において、事情のゆるすかぎり、兒童にローマ字による國語の讀み方、書き方を授けること」とした。かくして、四月からローマ字教育が國語教育の一環として實施されるに至つたわけである。

  また「當用漢字表」及び「現代かなづかい」が施行されて以來、主として文學者や國語學者の反對論が新聞雜誌に發表された。福田恆存は、二十一年十一月八日から三囘に亙り「國語問題と國民の熱意」を東京新聞に發表し、「問題は對象としての國語それ自體にあるのではなく、それを用ゐるものの態度にある」ことを繰り返し強調し「むづかしいといふのも、その規律を守りそれを知りきはめようとする實踐的な熱意から出てくる批判ではなく、はじめから易きにつかうとする怠惰と無責任とから生まれた愚痴であり、たんなる不平不滿にすぎない」と述べてゐる。


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