藤村の英語科廢止論 (六の2)

    昭和二年五月、藤村作が『現代』に「英語科處分の急務」を發表すると、新聞雜誌を通じて英語科廢止をめぐつて議論が沸騰した。『現代』も引續き十二月號まで、毎號諸家の意見を掲載してゐる。その口火を切った藤村は、先づ中學校、高等女學校、師範學校、高等學校等の外國語の時間數の頗る多いことを指摘し

* 中學校の五年、高等學校の三年を苦しみ拔いて得た外國語の智識を棄てて、役立ててゐない法學士がどれ程あるかと考へてみると、ほんたうに今の學制が馬鹿々々しく思はれるのである。社會に出て役立てる少數者の爲にかかる多數の人々が犠牲になつて、外國語科に苦勞してゐる今の學制の弊を痛感しないではゐられないのである。

といふ立場から「國民普通教育としての今の中學校には、一般に外國語科の廢止を主張する」と述べ、その結果國民の多数が外國から直接知識や思想を吸收できなくなるであらうが、「國家が大飜譯局を新設する」ことによって解決し得ると主張してゐる。

   同二年五月、大正商工社編『假名遣と送假名詳解』が刊行された。本書は主として臨時國語調査會の發表した諸案を利用し易いやうに編纂收録したものであるが、これと内容の類似したものに.四月三日刊行された木枝増一編『臨時國語調査會發表 漢字漢語假名遣整理案』がある。木枝は臨時國語調査會の「業績の報告は官報誌上に於てなされてをるのみで、之を集輯した冊子が今日に於て未だ刊行されてゐなかつたのである。これは種々の意味に於て甚だ遺憾なことであつた」として、同調査會發表の「常用漢字及ぴ略字」「漢字の字體整理」「假名遣改定案」「當字の廢棄と外國語の寫し方」「漢語の整理」を一册に收録してゐる。


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