教育調査會の設置と日下部の『現代の國語』 (五の3)


  同二年六月十三日、教育調査會の官制が勅令を以て發布された。同會は「文部大臣ノ監督ニ屬シ教育ニ關スル重要ノ事項ニ付文部大臣ニ建議スルコトヲ得」といふもので、総裁には加藤弘之、副総裁には文部大臣一木喜徳郎、委員には菊池大麓、澁澤榮一、岡田良平、高田早苗など三十名が任命された。同會委員九鬼隆一は、數名の賛成を得て、「我が言語文字を簡明にして實際に適切なるやう整理輕減するため調査機關を設立する事」等五項目から成る言語文字整理に關する建議案を、三年七月二十四日同調査會に提出した。またこの建議に次いで、十月十五日、委員成瀬仁藏と 高田は、委員數名の賛同を得て、国語國字改善に關する建議案を同調査會に提出した。その趣旨は 「國語ヲ整理シテ之ヲ簡易ニスルガ爲メ實用文體ハ口語文ニ一定シ日用文字トシテローマ字ヲ採用 シ他ノ各種文體及ビ假名漢字ハ之ヲ古典及ビ趣味用トシテ保存スル事トス」といふもので、その 「實行ノ順序及ビ準備要領」と長文の「理由」とを附してゐる。

  以上二つの建議案に對し、教育調査會は九名から成る特別委員により検討した結果、その主張を 可とし、大正四年の總會を經て政府へ提出する「研究調査する爲有力なる機關を設置する事」とい ふ建議案を作成した。

  また大正二年九月、日下部重太郎の『現代の國語』が刊行された。本書の大半は國字問題と假名 遣問題とを歴史的に敍述したもので、この方面の研究をする者にとって貴重な書物である。日下部自身の意見はあまり述べられてゐないが、各所にローマ字論者の陷りがちな過誤を犯してゐるしかし、ローマ字論者の書いたものとしては比較的偏見の少ないものであらう。

 


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