牧野文相と主事の説明   (四の34)

  同四十一年五月二十九日文部大臣官邸に委員が参集した際、牧野文部大臣は改定案について次のやうな説明を行ってゐる。牧野は、從來は就學の當初から漢字で教育したため,假名遣はあまり問題にならなかつたが、現行教育法では初級のものはすべて假名で教育するため「兒童ノ負擔ハ實ニ重イノデアリ」、我国の兒童が國語國文を學習する困難は、他國の數倍であることは爭ふべからざる事實であると述べ、次いで改定案に至るまでの經過と理由書に記載されてゐる事柄について略述した後、本案は教科書編纂の場合に許容するといふもので「將來スベテ此新假名遣法ニ一定シテシマッテ在来ノモノハ之ヲ全廢スルト云フ意味デハアリマセヌ」と説明してゐる。

  また四十一年六月五日に開かれた第一囘委員會では、先づ渡部主事から原案の説明を聴き、それに對し質疑を行ってゐる。渡部は、今囘の改定案は前囘の改定案と相違する點が二つあり、一つは改定の範圍を縮小したこと、一つは許容といふ形式をとつたことであると述べ、次いで假名遣には國民の意識に入つてゐるものと入つてゐないものとの二つの區別があり、前者は助動詞・動詞・形容詞などの活用語で、後者は「川(カハ)、家〔イヘ)、顔(カホ)」などで、「意識ニ入ラヌトコロノ假名遣ハ丁度漢字ノ所ニ當ルノデ」「サウ云フ假名遣ヲ改メテモ普通ノ漢字假名混合文ニ於キマシテハ何等ノ關係が無イヤウニ見エルノデアリマス」と、改定の範圍の狭いことを強調すると共に、許容といふことについて次のやうに説明してゐる。

* 此舊假名遣ニ對シテ新シイ假名遣ヲ許容致シマスルノハ丁度舊道ニ對シテ自然ニ起リマシタトコロノ新道ヲ認メル、公認ノ道路ト認メル關係ニ能ク似テ居ルカト私ハ思フノデアリマス   * ドウカ斯ウ云フ事情ヲ篤ト御諒察ニナリマシテ詰り舊イ道ヲ必シモ通ラヌデモ宜シイ、新シイ道ヲ通ツテモ宜イト云フヤウナ精神ヲ以テ此新シイ假名遣ヲ矢張教科書等ニ用ヰ得ルト云フコトニ就イテ十分ノ御同情ヲ下スツテ御審議ニナルコトヲ望.ムノデアリマス

 


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