國語假名遣改訂諮問  (四の26)

  明治三十七年二月、久保田文相は「文法上許容スヘキ事項」「國語假名遣改定案」「字音假名遣二關スル事項」「外國語假名遣改定案」を,國語調査委員會、高等教育會議、帝國教育會、師範學校にそれぞれ諮問した。その「國語假名遣改定案」 の緒言には「本案ノ改定假名遣ハロ語文語共二適用スルモノトス」とあり、小學校はもとより中等學校にも適用しようとしたものである。本案作成について、同三十八年三月三日の國語調査委員會の席上で、文部大臣の代理として次官が次のやうな説明を行ってゐる。

*   明治三十三年八月小學教育二於ケル新定字音假名遣法制定以來教育者間二於テハ国語假名遣ニモ字音假名遣ノ如ク學習二困難ナルモノ多キノミナラス字音假名遣ノミ發音的ニシテ国語假名遣ノミ全然舊來ノ假名遣ヲ墨守スルコト教育上不便ナレハ國語假名遣二關シテモ何分ノ改正ヲ加ヘタシトハ教育社會一般ノ希 望ナルカ如クニシテ是レ誠二道理アル希望ナリト信ス

  この國語假名遣改定案は、ア行の「お」を「を」に改め、助詞の「は、へ」は「わ、え」とする と共に、「ヂ」「ヅ」を廢するのを正則とし、二語連合の音便の「ヂ」「ヅ」及び連濁の「チヂム」 「ツヅク」のやうな場合を例外とし、長音は「一」を以て表はすが、用言の音便の「ウ」その他 一、二の場合には「ウ」を用ゐてもよいとしてゐる。一方この案とは別に、用言の語尾及ぴ助詞は從來通りといふ第二案を同時に提示してゐる。

  右の諮問に對し、高等教育會議は、三月二十四日「國語假名遣改定案」「字音假名遣ニ關スル事項」の二件は「重要ノ問題ナルヲ以テ十分講究ノ必要アリ依テ他日ヲ挨チテ更二諮問アランコトヲ 望ム」といふ結論を得、その旨上申してゐる。また國語調査會は同三十八年十一月二十一日に答申 してゐるが、その主な修正點は、国語及び字音の長音には「あ、い、う」を用みるのを正則とし「ー」 を代用することを許容したこと、二語連合及び二音連呼による「ヂ、ヅ」を保存したこと、「ゆー」 「きゆー」「しゅー」等を「いう」「きう」「しう」といふ表記にすること、連濁で濁る「智」「茶」 「中」「通」の四字と呉音で濁る「地」「治」の二字は「ジ」「ズ」に改めないこと、「は」「へ」「を」 に許容若くは例外を設けたこと、二語連合の音便に依って生じた字音の轉音は轉音のままに記すこ と、入聲の字音の「キ」「ク」が「力」行に始まる字音に附いて促音に轉ずることがあっても、原音のままに表記するのを正則とし、轉.音の形に表記するのを許容したことなどであり、なほ、字音假名遣は口語文語共に適用するが、国語假名遣は口語にのみ適用するとしてみる。

  右答申は、三十八年十二月に刊行された文部省編『假名遣諮問二對スル答申書』に收められてゐる。なほ『國學院雑誌』は、四、五、六、七月の四囘に亙り「文部省提出文法許容假名遣改定案に就きて」と題して.二十八名の意見を掲載してみる。

 


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