假名文と口語文の試み
二の4
明治二年八月、清水卯三郎は中外新聞に「紀州産石炭鑑定の説」といふ石炭の性能を述べた一文を假名文で發表した。
また明治三年七月、加藤弘之は口語體の論説書『眞政大意』を出版した。その一部を紹介すると
『乍去、素ト國政ニ治法ト治術トノ三通リガアリテ、治法トハ、所謂治安ノ基本タル憲法制度ノ事ヲ云ヒ、……併シ此二ツハ國政ノ上ニ於テ、所謂車輪鳥翼ノ如キモノデ、決シテ一モ缺ク事ハ出來ヌデゴザル」
といふ調子であり、漢文の色彩の濃いものであるが、その中に、小書きを用ゐて
「這入リテ
申シテ 戻リタ 云フ事 買フ事
得ル事 失ナフ事 失ハズ」
といふやうな表記をしてゐるのは興味深い。
(注)引用の本文には、返り點や小書きがあるが、ここでは改變せざるをえなかつた。